1937年のメガ盛り映画『新しき土』

 ネットで予告編を見て、山岳シーンに衝撃を受けて
東京写真美術館に見に行きました。

 

新しき土

 なんか色んな意味で衝撃的・・・・というか自分の琴線に触れまくりの
メガ盛り映画でした。

 以下、美味くまとまんないんで箇条書きです。


●山岳映画として凄まじすぎる。
 予告編でもかなり凄いシーンが使われてますが、本編はあんな
もんぢゃないです。後半、悩んだ末にふらふらと火山に登ってしまう
原節子(っていう展開も凄いけど)を追って小杉勇も入山するんだ
けど、道行きショートカットのためカルデラ湖を泳いで渡り(途中ガス
でムセって溺れかけたりする)、煙が噴き出す急斜面を道具も使わず
ガンガン登っていく。
 以前、『アイカー北壁』というドイツ映画の配給の仕事をした時に
ドイツにはかつて「山岳映画ブーム」というのがあったのを知ったの
だけど、今作にはその山岳映画の巨匠が参加していて、おそらくこの
山登りシーンを演出してる。んでこの山岳シーンか半端ない。当時は
巨大セット構築とかCG使用なんて事はない筈だから、当然、画面内
の風景は本物なのだろうけど、そうするとあの超急勾配も、岩間から
噴き出しているガスも全て本物? 登っている俳優も命綱も何にもな
し? 超急勾配をロングで捉えているカメラもそれなりの勾配なり
崖淵な場所に設置してるのか? いくら当時の巨匠の仕事とはいえ、
あらゆる意味で危険すぎるんぢゃないかと。山のシーンを見ていて
こんなに危険を感じたのは今作とあと『不良番長 骨までしゃぶれ』
のクライマックスぐらいだは。


●結構ベタベタにアイドル映画だったりする。
 現代だろうと大政翼賛まっしぐらな御時勢だろうと、女優の売り方
って変わらんですな。和服から始まって洋装、稽古着姿で長刀振り回し
に水着と特にストーリーに関係ないコスプレが有りぃの、理不尽な状況
に追い込まれて悩みぃの、悩んだ末に和服のままに火山に登っちゃって
火口に佇みぃの、まぁ第二次大戦後になるとこれに反撃・戦闘が加わって
きたりするんだろうけど、アイドル映画がやってることは基本入ってる
なぁと。日独合作映画で日本を代表する女優を紹介するっちゅうとこう
いう所に落ち着くのかな・・・・しかし「反撃・戦闘」がないってのはやっぱり
時代の特徴ですかな。別に直接的肉体的な戦闘をしろとは言わないんだけど、
ホント、悩んでいたと思ったらもう山に登っちゃう。劇中で明言はないけど
明らかに死にに行ってるんだよなぁアレ。当時の現実はともあれ、ああいう
女性像が由とされていたんですかねぇ。   


●ベタベタにプロパガンダ
 もうここまで来ると一種の「芸」ですよ。手を変え品を変え、会話の
狭間にあるいは強引に唐突に「ソ連の脅威」「日本は満州国を成功させね
ばならん」を言い続ける。
 多かれ少ながれ当時の映画ってこういう要素が盛り込まれていただろう
けど、今作はなんといっても日独伊三国同盟締結を記念して制作された
日独合作映画。ラストシーンの兵隊さんに守られながら機械を使った近代的
農業をする家族の和気藹々な感じとかもう言いたい放題のMAXですな。


円谷英二の特撮映画だったりする。
 乗り物での移動シーン等にスクリーンプロセスが使われていて、これが
日本で初めてのスクリーンプロセス使用、それを担当したのが円谷英二
とのこと。
 でも個人的に凄いと思ったのはクライマックス。物語に何の必然性もなく
〜いやまぁ、ラストを盛り上げるためだから必然性があるっちゃあるんだけ
ど・・・・まぁ一応前半から複線はあったか〜いきなり火山が噴火し原節子
杉勇が危うし、となるんだけど、この時の特撮シーンがもう、噴火の
影響の地震で家が押し潰され、おそらく人間の身長ぐらいの火山弾が降り
まくるという凄い絵。
 そんな中を山頂の火口付近に居た原節子を抱えて走って降りる小杉勇。し
かも登る時に靴脱いぢゃってるんで山肌の熱と岩で足血だらけ^^;;;;。いや
ぁそれでも助かっちゃうんですねぇアイドル映画ですねぇプロパガンダ映画
ですねぇ。というか特撮シーンの内容について本編スタッフや山岳スタッフ
と事前に打合せしてないのか?


●1937年の日本
 不勉強でこの頃の邦画って殆ど見ておらず、この当時の日本のイメージが
沸かない。この頃って、江戸川乱歩怪人二十面相シリーズを書き始めた
頃でじわじわと自由に物が言えなくなってきた頃なんだろうけど、作品内の
街中の描写を見ていると高級ホテルは在るはネオン街はきらびやかだは(白黒
だけど)、あまりというか全然暗い時代という感じはしない。逆に言うとそう
いう所が怖いんであってプロパガンダ映画なんだなぁと。それとびっくりした
のは誇張されてるとはいえ地方の農家の描写がまるで時代劇に出てくる農家
みたいだったこと。これも映画の後半な出てくる「輝かしい満州」との対比の
ためかも知れないけど、実際こぉんなだったのかなぁ。

 他にも色々と面白い所があって、ホントにもう、冒頭からラストまで興奮
しっぱなしだったのだけれど、実は此れが500円DVDで前から売ってた
んだよねぇ。
 う〜、面白いモノというのは何処に転がっているか分からんもんです。


 ↓円谷特撮満載のクライマックス〜ラストは此方。